享年93歳、巨星堕つ
5月9日の明け方。
私は知らない港町を彷徨っていた。
ふと、スマートフォンの通知音でこれが夢だと悟る。
通知を見ると母から
「空水さん、亡くなった。」と。
空水さんとは、
私の祖父だった人だ。
別に縁が切れている訳ではない。
2008年頃に一般的なおじいちゃんネームから、
『空水(くうすい)』という名前と存在に変わったのだ。
敬愛する空水さん、いや空水先生。
齢93歳、年齢も勿論、コロナウイルス感染、激しい認知症が重なりこの世を去った。
祖父と孫以上の関係だった私たち。
家族への動揺が隠せず、予定時間より早く家を出た。
家を出て空を見上げると龍のような雲が天に昇って行った。
『空水先生が天に昇ったか』
悲しい気持ちだったが、涙は出なかった。
仮通夜で対面
その日の夜、仮通夜を行うと連絡。
数日は葬儀などの都合で道場は休止。
約束の時間より早く会場に到着したが、
会場に入る勇気が出ない。
対面してしまったら、
彼の死がリアルになるのを恐れたのだ。
丹田呼吸を行い、心を整えて会場に入る。
祖母が今まで見たことが無い姿で落胆している。
まずは、それが衝撃で心がキリキリと痛む。
そして、空水先生と対面。
あまりの壮絶な姿に激しく気持ちが暗くなる。
妹や従兄妹たちが集結し、
哀しみながらも久しぶりの再開を喜ぶ。
告別式で読み上げられるという、
祖父との思い出を書いて欲しいと母に頼まれる。
色々あって悩んだが一つのエピソードを書いた。
なので書けなかったエピソードの一部を今回珍伝説として書くことにした。
珍伝説1 空水誕生
2008年頃、祖父から1通のメールが届いた。
『空と水は無くてはならない存在、私もそうでありたい。
これからはおじいちゃんではなく私は空水となります。』
田舎から名古屋に己の身一つでやってきて、
企業の専務取締役まで上り詰めた男。
昔から酒好きで、水分補給は酒。
かなり剛毅な男で少し変わっているが子ども好き。
そんな人がいきなり空水となった衝撃的な出来事。。
私は祖父を尊敬していたので、
祖父を空水さんまたは空水先生と呼び始めた。
珍伝説 第2話へ続く
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